小雪舞う寒い週末の午後、19人の方々がご参加くださいました。
レクチャーの前に温めておいた今日の漢方:十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)をいただきながらのスタートです。
十全大補湯は三大補剤の一つですが血虚(貧血)に効果が高いところが特徴です。ガンになると貧血になりやすく、かつ治療の過程でも貧血になることが多いので、補剤の中でも十全大補湯を選択することが多いのです。

がんは現在日本人の死因の第1位で、二人に一人ががんに罹るといわれています。
ヒトの体は約250種60兆個の細胞からなり、その細胞が組織を構成し、さらに臓器や器官として機能することで一つの個体として成り立っています。
がん細胞は個体の一つの正常細胞の遺伝子が変異することにより、永遠の増殖能を有することで、組織から異常増殖し他臓器に浸潤し転移します。ガン化の要因は複数あります。睡眠不足、ストレス、過労、高脂肪食、運動不足、喫煙、ウイルス、薬剤、紫外線などです。
生活習慣を見直すことでがんに罹るリスクを下げることができそうですね。

がんに冒されると様々な症状がでてきます。
疲労感や食欲不振、中でも痛み(癌性疼痛)は生活の質を低下させる主な原因の一つです。がんの治療は、固形がんの場合は手術により取り除く根治療法が第一選択になりますが、そのほか化学療法、放射線療法、ラジオ波、温熱療法などがあります。がん治療はがんを取り除き縮小させる治療だけでなく、その治療による副作用や後遺症の治療、ガンそのものの症状を緩和する治療も含みます。

漢方はがん治療の中でサポート(支持療法)として効果を発揮し、生存率の延長と化学療法他の副作用を軽くすることができます。実際にこれまでかかわったがん患者さんは、補剤(十全大補湯)を長期使用することで、体調の崩れがなく日常生活の質の低下を防ぐことができています。作用機序としては、抗がん剤や放射線療法による正常組織の組織障害や血行障害、がん組織への酸化ストレスが、漢方の駆お血作用によって緩和されると考えられています。

緩和ケアで使用される漢方の一例としては、
・全身倦怠感:補中益気湯、十全大補湯、人参養栄湯
・食思不振:六君子湯、補中益気湯
・嘔気・嘔吐:茯苓飲、五苓散、六君子湯
・腹部膨満感:大建中湯
・下肢痛・腰痛:牛車腎気丸
・筋肉痛、こむらがえり:芍薬甘草湯
・神経症:抑肝散、加陳皮半夏、柴胡加竜骨牡蛎湯

また支持療法で使用される薬剤として、様々な漢方が症状に応じて使用されています。
<手術に伴うもの>
・腹部膨満感:大建中湯/下剤、消化管運動亢進薬
・胃もたれ:六君子湯/消化管運動亢進薬
・術後咳:麦門冬湯/気管支拡張剤、鎮咳剤、去痰薬
・排尿障害:牛車腎気丸/自己導尿、排尿改善薬

<放射線療法に伴うもの>
・口内炎:半夏瀉心湯/うがい薬・張り薬、鎮痛剤
・口の渇き:麦門冬湯/唾液分泌促進剤
・皮膚炎:紫雲膏/皮膚潰瘍治療剤、ステロイド外用

<抗がん剤に伴うもの>
・痛み・痺れ:牛車腎気丸/抗炎症薬、鎮痛剤、VB12
・下痢:半夏瀉心湯/止瀉薬、整腸剤
・口内炎:半夏瀉心湯/咳嗽・保湿剤、粘膜保護剤、局所麻酔剤
・食思不振・嘔気:六君子湯/制吐剤
・筋肉痛:芍薬甘草湯/消炎鎮痛剤、ステロイド剤
・体力低下・全身倦怠感:補中益気湯、十全大補湯/ 経腸栄養剤

今まで、ガン治療は「がんを治す」ことに関心が向けられ、患者さんの「つらさ」に目を向けることが少ないということもあったように思います。これからのガン治療は、「がんの治療」と同じように「自分らしい生活」も大切にしていくことをサポートする医療・ケアを目指しています。
漢方は患者さんが自分らしい生活を送れることをサポートするという面でたくさんの可能性をもっていると実感する毎日です。