3月25日花曇りの午後、23人の参加をいただき、18回目になる健康セミナーを開催しました。

今回は、院外より講師をお招きし「おなかの話」を勉強しました。
講師は関西医大の消化器内科医である西尾彰功先生です。

今日のお試し漢方は、大建中湯(ダイケンチュウトウ)。
膠飴(コウイ:水あめ)、山椒(サンショウ)、乾姜(ショウガ)、人参(ニンジン)の4種類が含まれ、優しい甘さとショウガの香りで体がホカホカします。大建中湯は腹部を温めることで腸の動きを活発にし、術後の腸閉そくや腹力の弱い人の慢性便秘に効果があります。

前半は西尾先生の講義です。
私たちは普段どういう時に健康を感じるか?人それぞれ健康のバロメーターは違いますが、例えばそれは食欲であったり、睡眠、快便であったりします。
お腹の不快な症状はむかむかする、お腹がはる、胸焼けがする、お腹が痛い、便が出ない、お腹がごろごろ鳴る、お腹が空かない、下痢をする・・・など様々です。これらが全て検査で分かるというと、そうではありません。
まずお腹の臓器とはたらきについて勉強した後で、検査で異常が認められる病気、検査で異常が認められない病気について説明を受けました。

検査で異常を見つけることのできる病気は、胃潰瘍、胃炎、逆流性食道炎などです。
これら検査で分かる病気とは別に、半年以上症状が続くにもかかわらず検査をしても異常が認められない病気に、機能性ディスペプシア(FD)や過敏性腸症候群(IBS)があります。
FDの症状は、食後のもたれ感、早期の満腹感、心窩部痛、心窩部灼熱感であり、また間欠的で排便やおならで改善しない限局的な痛みも特徴です。原因の一つに神経やホルモンを介して調節されているとされる腸脳相関システムが、遺伝的素因(胃の形態や知覚異受容体の閾値低下)、環境的要因(ピロリ感染、喫煙、睡眠障害)、社会的要因(ストレス、PTSD)、心理的要因(不安障害、抑うつ)などにより障害されておこると考えられています。

最後に過敏性腸症候群についても勉強しました。排便の異常としては便秘、下痢、あるいはこれをくりかえす交代性便通異常に分類されます。そもそも便の硬さはカラダに入ってくる水分と出る水分のバランスによって一定に保たれています。飲水もふくめ1日に約9Lの水分が消化管に入り、8.9Lが再吸収されるため、便には100mlの水分のみ含まれることになります。この水分量が多いと下痢、少ないと便秘ということになってきます。この調節がうまくいかない病気が過敏性腸症候群(IBS)で、有病率は10~20%と意外に多い病気です。治療には薬物療法も重要ですが、食事療法や生活習慣の指導、心理療法もあり、自律神経と上手に付き合う必要があります。

西尾先生に消化器の病気の原因、治療を詳しく解説していただきました。 消化器の病気はそれぞれの臓器の器質的な問題だけでなく、機能的(はたらき)な問題とも関係し、それは精神的な要因とも関連していることがよくわかりました。

他方、漢方のアプローチは『心身一如(カラダとココロは一体である)』という考えを基礎にし、気血水の動き、陰陽虚実を考えて病気にアプローチします。
胃の症状、下痢や便秘などの腸の症状と、臓器によってさまざまな症状がありますが、原因としては、冷えか、水の偏在か、気のめぐりが悪いか、炎症(熱)によるものかを考えます。
セミナーでは、各疾患に応じてどんな漢方を選択するか、具体的な症例をご紹介しました。
漢方は現在150種類近くあり、その中でおなかに効く漢方はどれですか?と言われれば、『すべてです』といっても過言ではありません。
患者さんに応じた漢方を選択すると、患者さんの訴えが消化器症状以外のものであっても、おなかの具合が良くなることはしばしばあるからです。『カラダは一つである』ということを漢方を使用すると実感します。

西洋医学の考え方、東洋医学の考え方、どちらの考え方も念頭に置き、長所を最大限に生かして短所を補う診療を今後も目指していきたいと思います。

西尾先生ありがとうございました。
次回は、肝臓や膵臓、脾臓などの臓器の働きについても教えてください。