今回の参加者は24人でした。
クリニックには1年を通して、めまい・ふらつきを訴えてたくさんの患者さんがこられます。
ぐるぐる目が回ったり、ふらついたりするだけでなく、耳鳴りや吐き気、頭痛、気分不快など様々な症状を伴うことが多いです。気候や日々の天気の変化、女性であれば生理周期などにも影響されることがしばしばみられます。そして、この不快な症状と年余にわたり付き合っている人も見受けられます。
めまい、ふらつきには大きく二つの分類方法があります。一つは、脳梗塞や頚椎症など器質的なものと、ホルモン異常やビタミン欠乏症などの機能性(はたらき)によるものを分類する方法です。もう一つは、脳や脊髄という中枢神経に原因があるとするものと、耳や手足など末梢神経に原因があると分類する方法です。
器質的疾患は画像等で、機能的疾患も生理機能検査や血液検査等である程度絞り込んでいくことができます。ある一つの原因で症状を呈していると特定できた場合、エビデンスに基づいたガイドラインに則して、すべての医師が標準的な治療を行うことが可能です。
しかし、多くの場合は器質的な要因と機能的な要因がオーバーラップしており、治療のバリエーションが複雑になってきます。また、機能的疾患においては、ガイドラインに則した治療でも期待するほどの効果が得られないことを、実際の臨床現場ではしばしば経験します。その理由は、めまいやふらつきなどは検査で確認できるものもありますが、感覚の程度はあくまで主観的であるため、患者さんにとって程よい調子にもってくるということは、実際はきわめて難しいからです。
東洋医学では、めまいやふらつきは水循環不全(漢方では「水毒」という)で起こることが多いです。体液が欠乏している状態(脱水)も、過剰にある状態(浮腫)も、同様の症状を呈します。例えば低気圧がくると頭痛がしたり吐き気やめまいがおこる人は、診察すると体のむくみ、とくに舌がむくんでおり、水毒を疑って水循環を改善する漢方を投与します。
西洋薬でも利水効果を有する薬はあり、代表的なものがフロセミドというナトリウムカリウムチャンネル阻害薬、マンニトールなどの浸透圧利尿剤です。脳外科手術後などに脳がむくむと吐き気や頭痛、めまいを起こしますが、この時マンニトールを使用すると急激に利尿が促進されて脳浮腫が改善し、症状が緩和される、非常に有効な治療薬です。では漢方薬との違いは何か?それは西洋薬の働きが一方向性であるのに対し、漢方薬はその時の生体の状態に応じて保水と利尿の両方向性に機能する特異な働きを有するところにあります。漢方は作用が強すぎると効果が緩やかになり、程よいところでとどまる、なんとも便利な薬です。おそらく10数種あるアクアポリンという水チャンネルのカスケードに巧みに働きかけネガティブフィードバックをかけているものと思われます。漢方のこの利点が西洋医学においても認められ、頭蓋疾患における脳浮腫治療薬に漢方が頻用されるようになってきました。
その他、めまいやふらつきを起こす原因として、東洋医学的な診察では気虚や血虚、冷えなども考えられるため、患者さんの状態に適した方剤を選択し治療にあたります。もちろん漢方薬だけでなく、食事や運動など生活全般を見直して取り組むことも大切です。
少し難しい話になりましたが、よくある症状にも関わらず、実は非常に難解なめまいやふらつき、これからもたくさんの患者さんを診せていただき経験を積んでいきたいと思います。
ちなみに、好きな漢方は?と尋ねられたら、私はきっと「五苓散(ゴレイサン)」という利水の漢方を上位に挙げると思います。五苓散は、それほどに多くのめまい患者さんを救ってきた、素晴らしい漢方だと実感できるからでしょう。